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第9話 知らず知らずの変化

last update Terakhir Diperbarui: 2025-02-16 10:02:53

 シャーロットが目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。簡素で、彼女の感覚からするとみすぼらしい造りだった。

「気が付きましたか」

 メリッサの声に顔を横に向ければ、メイドは固く絞った手巾で額を拭いてくれた。ひやりとして心地よい。

「どこよ、ここ」

「村長の家です。奥様が魔力枯渇で倒れてしまったので、急遽運び込みました」

 シャーロットは自分が寝かされていた寝台を見た。藁を詰めた箱の上にシーツをかけただけの、質素なベッドである。

「藁の上に寝るなんて……」

 言いながら彼女は身を起こした。まだ少しふらつくが、立てないほどではない。

 それよりも調子に乗りすぎて人前で倒れるなんて、恥ずかしい。シャーロットはぐっと奥歯を噛み締めた。

「村人たちは、耕すのが捗ったと喜んでいましたよ」

「ふん」

 メリッサがいつもの口調で言うので、シャーロットは鼻を鳴らした。自慢のストロベリーブロンドの髪に藁くずがついていたので、顔をしかめて摘み取る。

 領主の館に帰ろう、そう思ってふと見ると、ドアの隙間から子供たちが覗いていた。フェイリムとティララの兄妹だ。

「覗くのはやめなさい、無礼ですよ」

 シャーロットは胸を張り、なるべく威厳を出すようにして言った。

 メリッサがドアを開けて子供たちを部屋に入れてやる。

「貴族の奥様、大丈夫?」

「メリッサお姉さんに、魔法は使いすぎると具合が悪くなるって聞きました。知らなくてごめんなさい」

 彼らの瞳には、純粋な心配と反省の色が浮かんでいた。

 シャーロットは目をぱちぱちと瞬かせる。

 ――子供たちの表情は、彼女の知らない種類のものだったので。

 王都で暮らしていた頃、風邪を引いて熱を出せば両親も使用人たちも心配をしてくれた。

 けれどもそれは、こんな風にただ気遣う心を向けるのではなく「早く良くなってくれないと、面倒だ」と言わんばかりのものだった。

 ましてや魔法の使いすぎや不注意で転んだ時など、シャーロット自身の責任で具合を悪くした時は、慰められながらもどこか冷たいものを周囲に感じていた。

 だから彼女は戸惑ってしまった。真摯で温かい思いを、つい先ほど知り合ったばかりの子供たちから向けられて。

「別に……どうってことないわ。私、もう帰る」

 ぶっきらぼうに言って、シャーロットは立ち上がった。

 部屋を出て居間に行くと、村長と一組の男女が立ち上が
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     秋祭りが終わってから、シャーロットはユニコーンに会えなくなってしまった。  何度森へ出かけても、彼の姿は見えない。あの青い泉にたどり着くことさえできなくなってしまった。「お礼を言いたかったのに」 落ち葉が舞い散る森の小径で、彼女は残念そうに呟いた。  ユニコーンはシャーロットを助けてくれた。そのおかげでとうとう、エゼルと身も心も結ばれて夫婦になれたのだ。「まったく、『乙女の守り手』なんて面倒よね。お礼も言えないんですもの! ねえユニコーン、聞いてる? 私、あなたのおかげで幸せになれたわ。いつかきっと、また会えるわよね?」 答えはない。木々の梢を渡っていく風が、さわさわと笑い声のような声を立てるばかり。  シャーロットはお土産に持ってきた葉野菜を置いて、その場を去った。  季節は冬に近づいていく。  農民たちは越冬の支度の最中だ。貴重な豚の命をもらってベーコンを作り、野菜を酢漬けにして樽に詰める。森に薪を調達しに行って、軒先でよく干しておく。用水路の水門を閉めて来年に備える。  冬は憂鬱な季節だと、彼らは口を揃えて言った。「けれど今年は、小麦の税が3割でしたから。今まではずっと楽です。餓死者は出さずに済むでしょう」 村長が言う。当たり前の口調で口に出された「餓死者」という言葉に、エゼルとシャーロットは胸が痛んだ。  やがて初冬になり、雪が降り始めた。  シリト村は王国でも北に位置する。しかも山が近いために、一足早く冬が深まるのだ。  雪が積もってしまえば、シリト村はほとんど陸の孤島となってしまう。きれいな雪に喜ぶのは子供たちと犬だけで、大人たちはうんざりとした顔で分厚い雪雲を眺めていた。  その知らせは冬も後半に入ったある日、雪のちらつく朝にもたらされた。「領主様、奥様!」 領主の館の扉を叩く者がいた。フェイリムだ。  朝食を終えたシャーロットが玄関を開けると、フェイリムは泣きそうな顔

  • ざまあされた廃嫡王太子と悪役令嬢の夫妻が田舎村で生きる力を取り戻すまで   第24話 秋祭り

     3日目、祭りの最後の日。  この日は夜に、広場の焚き火に藁づくりのユニコーンをくべて燃やす。そして今年の感謝と来年の安寧を祈るのだ。 捧げ物に囲まれている藁のユニコーンを、男たちが担ぎ上げた。村の中を練り歩く。  子供たちがきゃあきゃあと歓声を上げながらついていった。もちろん、フェイリムとティララもその中にいる。  その間に広場の火が灯された。  やがて到着した藁のユニコーンが、慎重に炎の中に降ろされていく。  藁は少しずつ燃えて、ある時一気に燃え上がった。ぱちぱちと火の粉が飛び、村人から祈りの声が上がった。「ユニコーン様、今年もありがとうございました。無事に収穫祭が終わります」「来年もどうか、見守っていて下さい」 若者たちが何人か、この祭りの間にすっかり心を通わせたパートナーと手をつなぎ、炎の前で祈っている。  仲睦まじい様子に、シャーロットの心が痛んだ。 ――私もエゼル様と一緒に、この炎を見たかった。 仕方ないと思っても、泣きたい気持ちになった。  隣に立つメリッサが、そっと背中を撫でてくれる。シャーロットは首を振って強がった。「平気よ。エゼル様がいなくたって、私はちゃんと秋祭りを最後まで見守るわ。だって、後を頼まれたんですもの!」「頼りになるなあ、シャーロットは」 不意に、一番聞きたかった人の声がした。  燃え盛る炎を背に、シャーロットは振り返る。地面に揺らぐ影の向こう、会いたかった人が立っている。「エゼル様!」 藁のユニコーンの炎が一層燃え上がった。シャーロットは短い距離を飛ぶように駆けて、エゼルに抱きついた。  戸惑うエゼルからは、旅の匂いがする。遠い場所の空気と、埃っぽさと、汗の匂い。「どうして? お帰りにはまだ、時間がかかると手紙にあったのに」「弟が、デルバイスが話を取り持ってくれてね。それで思ったよりも早く済んだ。秋祭りを思い出して、せめて最後の日だけでもシャーロットと一緒に祭りに出たくて、急いで戻ってきた」「そうでしたの……」

  • ざまあされた廃嫡王太子と悪役令嬢の夫妻が田舎村で生きる力を取り戻すまで   第23話 秋祭り

     秋祭りは3日に渡って続く。  2日目、シャーロットは捧げ物をお土産に持ってユニコーンの所に行った。  森の中は秋の空気に満ちていて、広葉樹の葉は黄色く色づいている。  落ち葉をさくさくと踏んで森を進めば、やがて泉が見えてきた。 泉だけは夏の頃と変わらず、不思議な青さで佇んでいる。そのほとりにユニコーンが立っていた。相変わらずの純白の毛皮は汚れ1つない。『やあ、シャーロット。お土産を持ってきてくれたのかい。嬉しいな』「村の秋祭りのものよ。あなた、見たことある? 大きい藁であなたの形を作るの」『ずいぶん昔に見たことがあるよ。僕はあんなに太っちょではないと思うんだけどなあ』 シャーロットは吹き出した。確かに、藁の馬は丸っこい体型をしている。  中に木材の芯を入れて藁を巻く作りなので、仕方がない。  ユニコーンは玉ねぎをしゃりしゃりとかじりながら言った。『うん、美味しい。今年の作物も、村人たちの思いがよくこもっている』「思い?」『僕は本質が魔力の存在だからね。人間が作った野菜を食べると、作った人の心を感じるんだ。シリト村の人々は心がきれいで、いつも癒やされる』「そうね……」 シャーロットはうなずく。  王都を追い出されて、この村にやって来た。突然現れた「領主夫妻」を、村人たちは受け入れてくれた。「私、農民は愚かで頑固で、よそものを嫌うのだと思っていたわ」『そういう面はあるよ。シリト村の人々は、成り立ちのせいもあって、他の村よりも優しい人が多いが。それでも、人間は狭い中でつながるものだからね。その輪の外から来た相手は、敵視しがちだ。  シャーロットがすんなり受け入れられたのは、きみが頑張ったせいもあるよ』「そう……かしら」『そうだよ。この玉ねぎも、かぼちゃも、人参も。シャーロットの思いを感じるもの。一生懸命、村人と一緒に畑の土と向き合った結果さ』「うん、ありがとう。そう言ってもらうと、勇気が出るわ」 言って、彼女は立ち上がった。収穫祭の最中に、あま

  • ざまあされた廃嫡王太子と悪役令嬢の夫妻が田舎村で生きる力を取り戻すまで   第22話 彼らの正体

     翌日、エゼルとオーウェンは役人たちを連れて村を旅立っていった。 大人数なので馬車に乗り切れず、徒歩の旅である。 朝、いよいよ出発の時間になった時、エゼルはシャーロットの手を取って言った。「往復の道程だけなら10日程度だが、告発と処罰の手続きにどのくらい時間がかかるか、まだ読めない。都度手紙を出して状況を伝えるよ。メリッサと一緒に、この村を頼む」「分かりました。気をつけていってらっしゃいまし」 遠ざかっていく夫の背中を、シャーロットはずいぶん長いこと見送っていた。 税金の話が片付いたので、村では秋祭りの準備が進められていた。「祭りの日までに、ご領主様が帰ってくればいいのですが」 村長が心配そうに言う。「気にしなくていいのよ。秋祭りは村の一番の楽しみだと聞いたもの」 そうは言ったが、シャーロットもエゼルと一緒に祭りを見て回りたいと思っている。 けれど願いは叶わず、秋祭りの当日になってもエゼルは戻らなかった。 シリト村の秋祭りでは、大地の精霊としてユニコーンを祀る。 藁束で作った大きな馬――ユニコーンに見立てたもの――の周りに、様々な農作物やパンを捧げるのだ。 小麦の束に大きなカボチャ、玉ねぎ、りんごや梨。パンはこの日のために焼いた、馬の蹄の形のもの。 藁束のユニコーンがたくさんの捧げ物に囲まれているのを見て、シャーロットは本物のユニコーンにもお土産を持って遊びに行こうと思った。「この角のある馬はユニコーン様っていって、村の守り神なんだよ!」 ティララが得意げに教えてくれる。シャーロットはくすくすと笑った。「ねえ、ティララはユニコーンを見たことがある?」「ないよ! ユニコーン様は森の奥に住んでいて、めったに人の前には出てこないんだって」「へえ、そうなのね」 ユニコーンの実在は、あまり口外しないようにと本人(本馬?)から言われ

  • ざまあされた廃嫡王太子と悪役令嬢の夫妻が田舎村で生きる力を取り戻すまで   第21話 彼らの正体

     領主の館に戻り、エゼル、シャーロット、それからオーウェンとメリッサは今後の対応を話し合った。「僕とオーウェンで彼らを王都まで連れて行く。ただ、僕は王都へ入るのを禁じられた身だ。近くの宿場町で留まって、あとはオーウェンに任せる形になる」 オーウェンはうなずいた。「お任せあれ。途中で王宮に連絡を入れて、護送用の人員を回してもらいましょう」「あぁ、お前はやっぱり……」 エゼルは苦笑した。シャーロットが首をかしげる。「何ですの?」「オーウェンは王家から派遣されたんだよ。そうだな、母上あたりの差し金じゃないか?」「御名答です」 オーウェンは澄ました顔でいる。「エゼル様とシャーロット様のお世話と監視を兼ねまして、メリッサとともに任につきました」「監視ですって!?」 シャーロットが声を荒げるが、オーウェンとメリッサは受け流した。「奥様、それはそうでしょう。あなたたちは王都を追放された、半ば罪人だったのですから」 と、メリッサ。オーウェンが続ける。「まあ監視というよりは、お2人がヤケを起こして自殺でもしないように、見守る意味合いが強かったのですよ。シャーロット様は思いがけない速度で立ち直りましたが、エゼル様は長らく塞いでおりましたし」「……あの時は心配をかけた」 エゼルがしょんぼりしている。「あたしは本職が護衛なんです。不慣れなメイドの仕事は大変でした」「あ~、だからお料理が下手なのね、メリッサは」 シャーロットがぽんと手を叩いて、メリッサは不満そうに眉を寄せた。「種明かしをしたということは、僕たちを信用してくれたのかい?」 エゼルが言うと、2人の使用人はそれぞれにうなずいた。「ここ何ヶ月かのお2人のご様子、それに今日の一連の騒動。このオーウェン、感服いたしました。以前のお2人であれば、考えられないほどです」「……

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